OpenAIミッションステートメントとは何か

OpenAIは米国の501(c)(3)非営利団体として、毎年IRSに税務申告書を提出しています。その申告書には「組織のミッションまたは最も重要な活動を簡潔に記述する」という欄があり、ここに書かれた内容には法的な意味があるんですよね。IRSがその団体の非営利としての適格性を判断する材料になるためです。

ProPublicaのNonprofit Explorerで2016年から2024年までの申告内容を確認できます。Simon Willison氏がこれをGitのリビジョンとして整理したことで、各年の変更点が一目でわかるようになりました。実際に見てみると、かなり興味深い変化が浮かび上がってきます。

OpenAIミッションステートメントの2016年版:オープンなAI開発

2016年のオリジナル版では、「人類全体に最も利益をもたらす形でデジタルインテリジェンスを発展させる」という目標が掲げられていました。特に印象的なのは「財務的リターンを生む必要性に制約されない」という文言と、「より大きなコミュニティの一員としてAIを構築し、計画や能力をオープンに共有する」という姿勢です。

この時期のOpenAIは、名前の通り「オープン」であることを強く意識していたようですね。研究成果を公開し、コミュニティと協力するという理念が前面に出ています。

2018年〜2022年:少しずつ消えるオープンさ

2018年になると、「コミュニティの一員として構築し、オープンに共有する」という部分がまるごと削除されました。ここが最初の大きな転換点だと感じます。

2020年には「人類全体」から「全体」が消えて単に「人類」になりました。とはいえ、「財務的リターンに制約されない」という文言はまだ残っています。

2021年には「デジタルインテリジェンス」が「汎用人工知能(AGI)」に置き換わり、表現もより自信に満ちたものに変わりました。以前は「世界がAIを構築する手助けをする」だったのが、「自分たちが開発して責任を持って展開する」という主語の変化が起きています。

2022年は「safely」という一語が追加されただけですが、安全性への配慮を明示的に加えた形ですね。まだ財務的リターンの制約には言及していました。

OpenAIミッションステートメント2024年版:大幅な簡略化

2023年は変更なしでしたが、2024年になると劇的な変化が起こりました。ほぼ全文が削除され、たった一文に凝縮されたんです。

「OpenAIのミッションは、人工汎用知能が全人類に利益をもたらすことを確保すること」

「人類」が「全人類」に拡張された一方で、「安全性」への言及は完全に消えました。そして「財務的リターンに制約されない」という文言も姿を消しています。営利化への転換を示唆する内容になっているとも読めます。

ミッションの変化が示すAI業界の方向性

こうした変遷を見ると、AI業界全体のトレンドとも重なる部分があります。また、Anthropicの300億ドル調達に見られるように、AI企業の資金調達規模は年々拡大しており、非営利の枠組みでは限界があるという現実もあるでしょう。

一方で、Anthropicの安全性研究者が退職した事例のように、安全性を重視する人材がAI企業を離れる動きも出てきています。ミッションの変化は単なる言葉の問題ではなく、組織の実際の方向性を反映しているのかもしれません。

ちなみにAnthropicも公益法人として類似の文書を提出していますが、OpenAIほど劇的な変化は見られないようです。企業のミッションステートメントは、投資家向けのメッセージとしても機能するため、今後も注目していく価値があると思います。

まとめ

OpenAIのミッションステートメントは、8年間で「オープンにAIを共有する非営利団体」から「AGIで全人類に利益をもたらす組織」へと変貌しました。安全性への言及が消え、財務的制約への言及も消えたこの変化は、GPT-5.2の科学的成果や巨額の資金調達と合わせて見ると、AI業界の商業化の加速を映し出しているように感じます。税務申告書という地味な書類が、ここまで多くのことを語ってくれるのは面白いですね。