2026年2月13日、Zig言語の標準ライブラリに大きな変更がマージされました。Linuxのio_uringとmacOSのGrand Central Dispatch(GCD)をバックエンドとした、新しい非同期I/O実装が正式にstd.Ioとして追加されたんですよね。

Hacker Newsでも200ポイント以上を集めて話題になっていたので、何が変わったのか、そしてこれが開発者にとってどういう意味を持つのかを整理してみました。

Zig言語の非同期I/Oがなぜ注目されるのか

Zigは「C言語の後継」を志向するシステムプログラミング言語です。メモリ安全性についてはRustほど厳格ではないものの、コンパイル時の安全性チェックやクロスコンパイルの容易さで独自のポジションを築いてきました。

ただし、非同期I/Oに関してはこれまで「実験的」な段階にとどまっていて、本番利用するには心許ない部分がありました。今回のアップデートで、OS固有の高性能I/Oメカニズムが標準ライブラリに統合されたことで、状況が大きく変わりそうです。

io_uringとは何か?Linuxの非同期I/O革命

io_uringは2019年にLinuxカーネル5.1で導入された非同期I/Oインターフェースです。従来のepollaioと比べて、システムコールのオーバーヘッドを大幅に削減できるのが特徴ですね。

仕組みとしては、カーネルとユーザー空間の間にリングバッファ(Submission Queue / Completion Queue)を共有メモリ上に配置します。これにより、I/O操作のたびにカーネルモードに切り替える必要がなくなるわけです。

実際のベンチマークでは、高負荷なネットワークサーバーやクラウドインフラ上のI/O処理で、epollと比較して30〜50%程度のスループット向上が報告されています。

Grand Central Dispatch(GCD)のmacOS側統合

macOS/iOS側では、AppleのGrand Central Dispatch(GCD)がバックエンドとして採用されました。GCDはAppleが2009年にSnow Leopardで導入した並行処理フレームワークで、macOSのシステム全体で使われている実績があります。

Zig言語の開発者であるAndrew Kelley氏は、プラットフォームごとに最適なI/Oバックエンドを選択する設計を採用しています。Linuxではio_uring、macOSではGCD、WindowsではIOCPといった具合に、OSの強みを最大限に活かすアプローチですね。

Zigの新しいstd.Ioの設計思想

今回の実装で特に興味深いのは、その設計思想です。従来の非同期ランタイム(Node.jsのlibuv、Rustのtokioなど)は、ユーザーランドで独自のイベントループを持つアプローチが主流でした。

一方でZigのstd.Ioは、OSカーネルのスケジューラに可能な限り委ねるという方針を取っています。これにはいくつかのメリットがあります。

  • ランタイムの薄さ:独自のイベントループを持たないため、バイナリサイズが小さく保てます
  • デバッグの容易さ:スタックトレースが自然な形で取れるので、非同期コード特有の「どこで止まっているかわからない」問題が起きにくいです
  • C言語との互換性:既存のCライブラリとの統合が自然にできます。C++とRustの連携のような複雑な橋渡しが不要です

RustのtokioやGo言語との違い

非同期I/Oのアプローチという点で、他の言語との違いも整理しておきます。

Rustのtokioは高度にカスタマイズ可能な非同期ランタイムで、io_uringへの対応もtokio-uringというクレートで提供されています。ただし、標準ライブラリレベルでの統合ではないため、エコシステムの分断が課題になることもあります。

Go言語はgoroutineとランタイムスケジューラによる並行処理モデルを採用していて、開発者がI/Oの非同期性を意識する必要がほぼありません。これは生産性の面では素晴らしいのですが、ランタイムが重くなるというトレードオフがあります。

Zigは「ゼロコスト抽象化」を掲げているだけあって、ランタイムの軽さと制御の細かさでは独自の立ち位置にいます。組み込みシステムやゲームエンジンのような、リソースが限られる環境での活用に期待が持てそうです。

開発者への影響と今後の展望

今回の変更は、次期リリースのZig 0.16.0に含まれる予定です。Zigの公式devlogで詳細な解説が公開されているので、具体的なAPIに興味がある方はそちらを確認してみてください。

Zig 1.0のリリースも2026年中に見込まれていて、この非同期I/Oの成熟が1.0のキーピースになるのは間違いなさそうです。Rustベースのフレームワークが台頭する中で、Zigがどのようなポジションを確立していくのか注目していきたいところですね。

まとめ

Zigの新しいstd.Io実装は、io_uringとGCDという各OSの最高性能のI/O機構を標準ライブラリに統合した、システムプログラミング言語として自然な進化だと感じます。「ランタイムを薄く保ちながらOSの力を最大限に引き出す」というZigの哲学が、非同期I/Oの設計にもきれいに反映されていました。

システムプログラミングに興味がある方は、Andrew Kelley氏のブログ記事も合わせて読んでみると、設計判断の背景がよくわかると思います。