「まだAI使ってないの?」という煽り

SNSでよく見かけるようになりました。「まだAI使ってないの?」「AIを使いこなせない人は置いていかれる」。こういうポストが毎日のようにタイムラインに流れてくる。

正直、好きじゃないです。

別にAIを否定しているわけじゃありません。自分自身、仕事でもプライベートでもAIは日常的に使っている。問題は、あたかも「早く始めた人が圧倒的に有利」かのように見せる煽り方です。先行者利益がある前提で語られている。でも実際にはそんなものはほぼ存在しません。

昨日のアンチが今日のヘビーユーザー

自分の周りでもこういう光景を何度も見ました。半年前まで「AIなんて使い物にならない」と言っていた人が、ある日突然ChatGPTを使い始めて、1〜2ヶ月後にはもう普通に業務に組み込んでいる。

これを見て思いました。先行者利益なんてないんだと。

2年前からプロンプトエンジニアリングを研究していた人と、先月始めた人の差はどこにあるか。ほとんどない。なぜなら、2年前に学んだテクニックの大半はもう使えないから。モデルが変わり、UIが変わり、できることの範囲が変わった。過去に積み上げたものが、そのまま今の競争優位にはなりません。

積み上がらないものを積み上がった風に見せる人たち

AIの知識やスキルは積み上がらない。正確に言えば、従来の技術のようには積み上がりません。

プログラミング言語なら、基礎の上に応用が乗り、応用の上に設計力が乗る。10年の経験は確かに10年分の厚みを持つ。でもAIツールの使い方は違います。先月のベストプラクティスが今月はもう古い。新しいモデルが出れば、プロンプトの書き方自体が変わる。

にもかかわらず、SNS上には「AI歴2年」「プロンプトエンジニアリング歴1年半」を肩書きにしている人がいます。その経歴に意味があるかのように見せている。でも冷静に考えれば、2年前のAI知識で今の業務に直接活きているものがどれだけあるか。ほとんどないはずです。

積み上がらないものを積み上がった風に見せている。それがAI界隈のインフルエンサーの多くがやっていることです。

「あなたは〇〇です」を毎回打つ虚しさ

象徴的な例があります。「あなたは優秀なマーケターです」「あなたはプロの編集者です」みたいなロールプロンプトを、毎回手動で打っている人がいる。確かに一時期はそれが効果的だと言われていました。

でも今のモデルは、そんなプロンプトがなくてもコンテキストを理解する。カスタムインストラクションやシステムプロンプトの設定で済む。GPTsやGemsのような仕組みもある。毎回手打ちしている時点で、最新のやり方を追えていないんですよね。

これは些細な例に見えるかもしれませんが、本質を突いています。AI活用の「先行者」を自称する人のやり方が、すでに時代遅れになっている。先に始めたことが何の保証にもならない証拠です。

先行者利益は2ヶ月持たない

自分の感覚では、AIにおける先行者利益の賞味期限は長くて2ヶ月。

新しいツールが出る。早く触った人が一時的に詳しくなる。SNSで解説記事を書いて注目される。でも2ヶ月もすれば、後から始めた人も同じレベルに追いつく。ツール側のUIが改善されて、学習コストも下がる。最初に苦労して覚えたことが、後発組にはワンクリックでできるようになる。

これはAI人材のスキル定義が破綻する問題とも繋がる話。経験の蓄積が優位性にならないから、先に始めても後から来た人に追いつかれる。

日経のAI関連報道を見ても、半年前に話題だったツールや手法がすでに別のものに置き換わっています。McKinseyのAIレポートでも、AI導入の成否を分けるのは「早く始めたかどうか」ではなく「組織として継続的に適応できるか」だと繰り返し指摘されている。

最後に残るのは何か

AIに先行者利益がないとすれば、最終的に差がつくのは何か。

自分が見てきた限り、3つしかありません。資本、過去の実績、そして生まれ持った適応力。

資本があれば、最新のツールやAPIにいつでもアクセスできる。専任のチームを組める。試行錯誤のコストを吸収できる。これは個人のスキルとは関係ない、純粋に経済的な優位性です。

過去の実績は、AI以前に築いたドメイン知識や信頼を意味します。AIは道具であって、道具を使う先にある専門性や人脈は簡単には複製できない。10年かけて築いた業界内の信頼は、AIが登場しても変わりません。

そして生まれ持った適応力。新しいものに対する好奇心、変化への耐性、試行錯誤を苦にしない性格。これについては以前の記事でも触れましたが、研修で身につくものではありません。

煽りに乗る必要はない

「まだAI使ってないの?」と煽られて焦る必要はない。今日から始めても遅くないです。というか、3ヶ月前に始めた人との差はほぼありません。

逆に、「自分は早くから使っている」というだけで優位に立てると思っているなら、それは危険。来月には昨日始めた人に追いつかれている。先行者利益を過信して学習を止めた瞬間に、その人は後発組以下になります。

大事なのは「いつ始めたか」ではなく「変化し続けられるか」。それだけです。煽りポストをいくら読んでも身につきません。

AIの世界に先行者利益はない。あるのは、変化に適応し続ける人間と、どこかで止まる人間の差だけ。そしてその差は、残酷なことに、ほぼ生まれつき決まっています。

だからこそ、焦る必要はない。煽る側の言葉に踊らされるのではなく、自分のペースで、自分に必要なものだけを取り入れればいい。先行者利益という幻想を売りつけてくる人間の言葉は、2ヶ月後にはもう何の意味も持っていないのですから。