「AI人材を採用したい」という声をよく聞く。しかし、AI人材とは具体的に誰のことだろうか。実はこの曖昧さが育成を止めている原因だ。そこで今回は、AI人材の役割分解と、採用・育成を立て直す方法を整理する。

AI人材という言葉の問題点

AI人材という言葉はあまりに広い。研究者もエンジニアもプロンプトを書く人もすべて含まれてしまう。しかし、求められるスキルはまったく異なる。つまり、ひとくくりにした瞬間に議論が噛み合わなくなる。

実際、IPAの調査でも日本企業の85%以上がDX人材不足を訴えている。しかし、何の人材が足りないのかを具体的に定義できている企業は少数だ。そのため、採用しても期待と実態がずれてしまう。なぜなら、「AI人材」というラベルで募集すると、応募者も企業も互いの期待を読み違えるからだ。

AI人材の役割を分解する

まず、AI人材を3つの層に分けて考えるとわかりやすい。第一にAI研究者だ。論文を読み、新しいアルゴリズムを開発する人たちだ。しかし、多くの企業にこの層は不要だ。研究は大学やAI企業に任せればいい。

第二にAIエンジニアだ。モデルの学習や推論パイプラインの構築を担う。具体的には、データの前処理からデプロイまでの技術的な実装を行う。また、MLOpsの設計も含まれる。この層は自社でAIを開発する企業には必須だ。

第三にAI活用人材だ。既存のAIツールやAPIを使って業務を改善する人たちだ。プロンプトエンジニアリングやノーコードツールの活用が中心になる。実際、多くの企業が本当に必要としているのはこの層だ。さらに、この層の育成コストは比較的低い。そのため、まずここから手をつけるのが現実的だ。

パープルピープルという考え方

デロイトが提唱する「パープルピープル」という概念がある。これはビジネスと技術の両方を理解できる人材のことだ。つまり、赤(ビジネス)と青(技術)を混ぜた紫色の人材という意味だ。

ビジネス側には戦略立案や顧客体験設計の能力が求められる。一方、技術側にはAIエンジニアリングやセキュリティの知識が必要だ。しかし、両方を高いレベルで持つ人は極めて少ない。そこで重要なのは、片方の専門性を持ちつつ、もう片方の基礎を理解している人材を育てることだ。

なお、パープルピープルは採用だけで確保するのは難しい。したがって、社内で育成する仕組みが必要になる。具体的には、技術者にビジネス研修を、ビジネス人材に技術研修を提供する。相互理解を深めることで、橋渡し役が自然に生まれる。

役割分解で採用と評価を立て直す方法

まず、自社に必要なAI人材の層を明確にする。研究者なのか、エンジニアなのか、活用人材なのか。これだけで採用の精度は格段に上がる。

次に、各層ごとにスキルマップを作成する。たとえば、AI活用人材ならプロンプト設計、データ分析の基礎、業務プロセスの理解が必要だ。しかし、ディープラーニングの理論は不要だ。このように、不要なスキルを外すことで育成の効率が上がる。

さらに、評価基準も層ごとに分ける。AI活用人材を研究者の基準で評価しても意味がない。むしろ、業務改善の成果で評価すべきだ。とはいえ、評価制度の変更は時間がかかる。だからこそ、まずは小さなチームで試験運用するのがおすすめだ。

加えて、ソフトスキルの重要性も忘れてはいけない。AI時代こそ創造的思考力やコミュニケーション能力が求められる。実際、AIが定型業務を代替すればするほど、人間には非定型の判断が求められる。このように、AI人材を役割ごとに分解するだけで、採用と育成の精度は大きく変わる。曖昧なラベルを捨てて、具体的な定義から始めてみてほしい。