「AI人材を採用したい」という相談を受けることが増えました。ただ正直なところ、この言葉を聞くたびに少し困る。何を指しているのか、聞くほどにわからなくなるんですよね。

Java経験5年、AWSの設計構築3年。こうしたスキルセットであれば、求人票に書けるし、面接で確認もできる。再現性がある。同じ「Java 5年」を持つエンジニアが二人いれば、だいたい同じ仕事ができます。IT人材の採用はこの前提で長年まわってきました。

ところがAI領域では、この前提そのものが成り立たない。

2年前の「最先端」はもう古い

2024年の時点で「プロンプトエンジニアリングに精通」と書いていた人がいたとします。当時はそれで通用しました。でも2026年の今、プロンプトの書き方だけで差別化できる場面はほとんどない。モデル側が賢くなり、エージェント型のアーキテクチャが主流になり、求められるスキルの重心はまったく別の場所に移りました。

これは特定の個人が勉強不足だという話ではありません。技術そのものの賞味期限が短すぎるんです。arXivのAIカテゴリを見れば、毎週のように新しいアーキテクチャや手法が発表されている。半年前に「最新」だったフレームワークが、今はもうメンテナンスモードに入っている。そういう世界です。

Javaは20年前に書いたコードが今でも動きます。Kubernetesの運用知識は3年経っても大部分が使える。でもAI領域では、2年前に身につけたスキルセットの半分以上が陳腐化している。この速度感は、従来のIT人材市場の枠組みでは扱えません。

「AI人材ください」という発注の構造的な問題

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SES(システムエンジニアリングサービス)や人材派遣のモデルは、スキルシートで人を定義できることが前提になっています。「この技術を持った人を月額いくらで」という取引ですね。

AI領域でこれをやろうとすると、何が起きるか。

まず、スキル要件を書く段階でつまずきます。「LLMの実務経験2年以上」と書いたところで、その2年間で扱った技術は既に世代交代している可能性が高い。「RAG構築経験あり」と書いても、RAGのベストプラクティスは半年単位で変わっている。スキルシートに書ける項目が、その人の現在の実力を正確に反映しないんですよね。

さらに厄介なのは、AI領域の仕事は個人の技術力だけで完結しないことが多い点。ビジネス要件の理解、データの特性把握、モデル選定、評価設計、運用設計。これらが有機的につながって初めて価値が出る。一人のエンジニアを「はめ込む」ことで解決する問題ではありません。

IPAのITスキル標準のような枠組みは、安定した技術領域では機能します。でもAIのように技術の地殻変動が半年単位で起きる領域では、標準化されたスキル定義自体が追いつかない。根本的な限界です。

個人のスペックではなく、チームの学習速度

自分たちのチームで何度もAI関連のプロジェクトをやってきて、一つ気づいたことがあります。成果を出し続けているのは、特定の「すごい人」がいるチームではなく、チーム全体の学習速度が速いチームでした。

新しいモデルが出たら翌週には検証している。論文が出たら読んで議論している。ツールが変わったら乗り換えの判断が速い。こうした適応力は、個人のスキルシートには載らない。チームの文化であり、習慣なんですよね。

AI領域では、実験と反復のサイクルが速いチームほど成果が出やすい傾向がある。開発プロセスの形式よりも、新しい技術を試して素早くフィードバックを得られる体制があるかどうか。AI領域の仕事は、チームの動き方そのものがアウトプットの質を左右します。

人を売るモデルの限界

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SESや派遣のモデルは「人を売る」ビジネスです。スキルシートでマッチングし、単価を決め、現場に送る。このモデルが成立するには、スキルの定義が安定していて、個人単位で成果が出せることが条件。

AI領域では、この二つの条件がどちらも満たされません。スキル定義は流動的で、成果はチーム単位で出る。「AI人材を派遣してください」という依頼は、構造的に破綻しているんですよね。

ではどうするか。一つの方向性として、個人の派遣ではなくチームごと関わる形態があります。固定のチームがクライアントの課題に継続的に取り組み、技術の変化に応じてアプローチを更新し続ける。人を入れ替えるのではなく、チームが学習し続ける。以前の記事でも触れましたが、納品型よりも継続的に改善し続ける関わり方の方が、変化の速い領域ではフィットしやすい。

「AI人材」ではなく「AI適応チーム」を探す

採用や外注を考えるとき、「AI人材」という言葉を使っている時点で、たぶん問い自体がずれています。探すべきは特定のスキルセットを持った個人ではなく、変化に適応し続けられるチーム。

具体的には、こういう特徴を持つチームを探すといいかもしれません。

  • 新しい技術を検証するサイクルが組織に組み込まれている
  • 「今のベストプラクティス」を定期的に更新している
  • 一つのツールやフレームワークに依存していない
  • ビジネス課題から逆算して技術選定ができる
  • 失敗を前提とした実験の文化がある

これはスキルシートでは測れません。実際に一緒に仕事をしてみないとわからない部分も多い。だからこそ、短期の人材調達ではなく、継続的なチーム単位の関わり方が合理的になります。

スキル定義の時代が変わるとき

もう少し大きな視点で見ると、AI領域で起きていることは、IT業界全体の未来を先取りしているのかもしれません。技術の変化速度が上がり続ければ、いずれ他の領域でも「スキルセットで人を定義する」ことの限界が見えてくる。

そのとき価値を持つのは、特定の技術を深く知っていることではなく、新しい技術を素早く学んで実戦投入できる力です。そしてそれは、個人の能力というよりチームの仕組みの問題。

「AI人材ください」と言う前に、自分たちが本当に必要としているものは何かを考え直してみてほしいです。たぶんそれは、一人の優秀なエンジニアではなく、一緒に学び続けられるチームのはず。

実際に自分たちも、手元のデバイスをAIエージェント化して24時間検証を回すような実験を日常的にやっています。こういう「試し続ける習慣」は、どんなスキルセットよりも長持ちする。

スキルシートで人を定義する時代は、少しずつ変わりつつあります。AI人材という幻想を追いかけるよりも、チームの学習速度を上げることに投資した方が、結果的に大きなリターンを得られるはずです。

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