革新的な小型宇宙機ミッション

ロケットラボ製の2機の宇宙機が、まもなく2段階の旅に出発します。第1段階は、カリフォルニアからケープカナベラルの発射場まで55時間かけて約4,000キロを移動します。そして第2段階では、11ヶ月かけて約3億7,000万キロ離れた火星を目指します。

このミッションは、ESCAPADE(Escape and Plasma Acceleration and Dynamics Explorers)と呼ばれ、太陽風と火星大気の相互作用を研究することが目的です。カリフォルニア大学バークレー校の宇宙科学研究所が科学ペイロードを開発しましたが、宇宙空間を飛行し火星周回軌道でペイロードを運ぶ衛星バスはロケットラボが担当しています。

コスト削減への挑戦

NASAによると、このミッションは早くても10月にブルーオリジンのニューグレンロケットの初飛行で打ち上げられる予定です。ロケットラボは、この機会を通じてNASAと世界に対し、太陽系全体を探査できる高性能宇宙機を製造する能力を示そうとしています。

これまで火星への到達には非常に高いコストがかかってきました。例えば、2005年の火星偵察オービターや2013年のMAVENミッションでは、NASAは1機につき5億ドル以上を費やしています。しかし、NASAは2019年にSIMPLEx(Small Innovative Missions for Planetary Exploration)プログラムを立ち上げ、小型宇宙機による深宇宙ミッションに資金を提供し始めました。

コスト削減目標と革新的アプローチ

このプログラムでは、従来の10分の1である5,500万ドルという予算上限を設定しています。ESCAPADEは、SIMPLExプログラムで選ばれた3つのミッションの1つであり、おそらく最初に打ち上げられるものとなるでしょう。

ロケットラボのESCAPADE主任システムエンジニア、クリストフ・マンディ氏は、同社の宇宙機が「他のどの選択肢よりも2桁安い」と述べています。この大幅なコスト削減は、宇宙探査の新たな可能性を開くものとして注目されています。

技術的課題と革新的解決策

ESCAPADEの宇宙機、ブルーとゴールドは、ロケットラボのエクスプローラープラットフォームをベースにしています。地球軌道から火星まで到達できる宇宙機の設計が最大の課題の1つでした。そのため、ESCAPADE宇宙機は質量の約70%が燃料となっています。

ユニークな設計アプローチ

さらに、打ち上げ車両が設計プロセスの後半まで決まらなかったことも大きな課題でした。そのため、エンジニアたちは打ち上げ車両に依存しない設計を目指しました。代わりに、火星軌道投入(MOI)マヌーバーに必要な最大質量を基準に設計を行いました。

この制約が革新を促しました。宇宙機は箱型ではなく、マンディ氏が「タンクサンドイッチ」と呼ぶ形状になりました。2つのデッキがストラットで接続され、その間に燃料タンクが配置されています。この設計により、主構造の質量比を通常の20-22%から12%に削減することができました。

ミッションの今後

打ち上げ後、宇宙機は11ヶ月かけて火星に向かい、重要なMOI燃焼を行います。その後、約11ヶ月間にわたって科学データを収集し、地球に送信します。

マンディ氏は具体的な打ち上げ時期を明かしませんでしたが、現在が宇宙機の移動効率のピークであり、その後数ヶ月間はウィンドウが開いていると述べています。もしこの機会を逃せば、次の機会まで26ヶ月待たなければならないでしょう。

ESCAPADEミッションは、革新的な設計と大幅なコスト削減により、火星探査の新時代を切り開く可能性を秘めています。成功すれば、今後の宇宙探査ミッションのあり方を大きく変える可能性があります。