イギリスの法務省(Ministry of Justice)が、同国最大の裁判報道データベース「Courtsdesk」の全レコード削除を命じたことが波紋を広げています。1,500人以上のジャーナリストが利用していたこのプラットフォームは、第三者のAI企業へのデータ共有が発覚したことが引き金となりました。
Courtsdeskとは何だったのか
Courtsdeskは2020年にHM Courts & Tribunals Service(HMCTS)との合意のもとで立ち上げられた裁判情報プラットフォームです。39のメディア機関に所属する1,500人以上のジャーナリストが、治安判事裁判所のリストやレジストリを検索するために使っていました。
当時のJustice Minister Chris Philp氏とLord Chancellorの承認を得て運営されていたので、非公式なものではなかったんですよね。むしろ、裁判の透明性を支える重要なインフラだったと言えます。
なぜ削除が命じられたのか
HMCTSが2024年11月に出した停止通知では、「裁判情報の不正共有」が理由として挙げられています。具体的には、Courtsdeskが収集したデータを第三者のAI企業に共有していたことが問題視されました。
裁判記録は公開情報ではありますが、それをAI学習データとして活用することへの懸念は理解できます。Clearview AIの顔認識問題と同様、「公開情報だから何に使ってもいい」とは限らない、という原則が改めて突きつけられた形です。
報道の自由への影響
問題は、Courtsdesk削除の副作用がかなり大きいことです。創設者のEnda Leahy氏によると、HMCTSの独自システムは正確率がわずか4.2%で、160万件の刑事裁判がメディアに事前通知なく進行していたそうです。
全裁判所の3分の2が、定期的にジャーナリストへの通知なしで審理を行っていた、という数字はかなり衝撃的ですよね。Courtsdeskはその穴を埋める唯一のシステムだったわけで、削除されれば重要な事件が報道されないリスクが高まります。
政府側の主張
HMCTSの広報担当者は「メディアの裁判情報へのアクセスは影響を受けない」としています。リスティングや記録は引き続き利用可能だと。
ただ、「アクセスできる」ことと「効率的に検索・追跡できる」ことは全く別の話です。Googleが学生記者の個人情報を政府に提供した事例もそうですが、テクノロジーと報道の自由の関係は年々複雑になってきています。
AI時代のデータガバナンス
この事件が示しているのは、AIによるデータ利用のガバナンスがまだ追いついていないという現実です。公開情報をAI学習に使うことの是非は、著作権問題とも絡んで今後ますます議論が活発化するでしょう。
一方で、「AIにデータを渡した」というだけで有益なサービスが丸ごと潰されるのは、やや過剰反応にも見えます。データの種類や用途に応じた段階的なルール作りが求められているのではないでしょうか。
AIエージェントの倫理違反が注目される中、データの収集・活用・共有の各段階で透明性を確保する仕組みが不可欠になってきていますね。今回のCourtsdesk事件は、そうした議論を加速させるきっかけになりそうです。
参考: Ministry of Justice orders deletion of the UK’s largest court reporting database – Legal Cheek