Tailscale Peer Relaysとは何か

Tailscaleを使っていると、普段はデバイス同士が直接つながるP2P接続で快適に通信できます。ただ、実際のネットワーク環境はそう単純ではなくて、厳しいNATやファイアウォール、クラウド環境特有の制約でP2P接続が確立できないケースも結構あるんですよね。

そういった場面でこれまでTailscaleが頼っていたのが、DERP(Designated Encrypted Relay for Packets)というリレーサーバーでした。Tailscaleが運営するサーバー経由でトラフィックを中継する仕組みです。しかし、DERPサーバーは地理的に限られた場所にしかなく、スループットにも限界がありました。

そこで登場したのがTailscale Peer Relaysです。2026年2月18日に正式リリース(GA)が発表されたこの機能は、ユーザー自身のTailscaleノード上にリレーを配置できる仕組みになっています。自分のインフラ内にリレーポイントを置けるので、パフォーマンスもコントロールも格段に向上します。

従来のDERPリレーとの違い

従来のDERPリレーとPeer Relaysの違いを整理してみました。

DERPリレーはTailscaleが管理する共有サーバーで、世界中のユーザーがトラフィックを共有します。一方Peer Relaysは、自分のtailnet内の任意のノードをリレーとして指定できます。つまり、自分のクラウドインスタンスやオンプレミスサーバーに配置することで、トラフィックが自分の管理下から出ないんですよね。

また、GA版では大幅なスループット改善が行われています。ロック競合の改善やUDPソケットの分散処理により、多数のクライアントが同時接続する環境でもパフォーマンスが落ちにくくなりました。

静的エンドポイントでクラウド環境の制約を突破

特に注目したいのが、静的エンドポイントへの対応です。AWSやGCPなどのクラウド環境では、インスタンスが厳格なファイアウォールルールの背後にあったり、ポートフォワーディングやロードバランサーを経由していたりすることが多いですよね。

Peer Relaysでは--relay-server-static-endpointsフラグを使って、固定のIP:ポートペアをtailnetにアドバタイズできます。これにより、AWS Network Load Balancerの背後にPeer Relayを配置しても、外部クライアントからリレー経由でトラフィックを流せるようになりました。

結果として、従来サブネットルーターが必要だった環境でも、Cloudflare Tunnelのようなトンネリング技術と組み合わせなくても、フルメッシュ構成が可能になっています。

監査性と可視性の向上

GA版では、Tailscaleの監査ログとの統合も深まっています。どのノードがリレーとして機能しているか、どれだけのトラフィックが流れているかを管理コンソールから確認できるようになりました。

セキュリティの観点からも、これは大きな進歩だと感じます。SSHトンネリングのような手法と比較すると、Tailscaleの暗号化されたメッシュネットワーク上でリレーが動作するため、追加の認証設定が不要な点が魅力的です。

どんな環境で使うと効果的か

Peer Relaysが特に効果を発揮するのは、以下のような環境です。

まず、厳格なNATの背後にあるデバイス群。例えば、企業のオフィスネットワークでキャリアグレードNATが使われている場合、P2P接続がほぼ不可能なことがあります。こういった環境にPeer Relayを1台配置するだけで、オフィス内の全デバイスが外部と安定して通信できるようになります。

次に、マルチクラウド環境。AWS、GCP、Azureなど異なるクラウドプロバイダー間でメッシュ接続する場合、各環境にPeer Relayを配置することで、クラウド間通信のレイテンシを大幅に削減できます。

さらに、IoTデバイスの管理にも有効です。MQTTプロトコルで通信するIoTデバイスが多数ある環境では、Peer Relayをゲートウェイとして活用できます。

設定方法の概要

Peer Relayの設定自体は比較的シンプルです。Tailscaleがインストールされている任意のノードで、リレーモードを有効にするだけで基本的な設定は完了します。詳細な設定手順はTailscale公式ドキュメントで確認できます。

静的エンドポイントを使う場合は、以下のようなコマンドで設定できます。

tailscale set --relay-server-static-endpoints=203.0.113.10:41641

あとは管理コンソールのACLポリシーでリレーの利用を許可するだけです。既存のTailscaleユーザーなら、追加のインフラ構築なしに導入できるのがポイントですね。

WireGuardとの比較

WireGuardを直接使う場合と比べて、Tailscale Peer Relaysのメリットは「自動化」にあります。WireGuardでリレーを構築しようとすると、中間サーバーの設定、ルーティングテーブルの管理、鍵の配布など、かなりの手作業が必要です。

Tailscaleはこれらを自動的に処理してくれますし、Peer Relaysもtailnetのコントロールプレーンに統合されているため、ノードの追加・削除が即座に反映されます。運用コストの違いは、特にデバイス数が多い環境では顕著になってきます。

まとめ

Tailscale Peer Relaysの正式リリースは、「P2P接続できない=パフォーマンスが落ちる」という従来の常識を変える可能性を持っています。自分のインフラ内にリレーを配置できることで、パフォーマンス、セキュリティ、可視性のすべてが向上しました。

特にクラウド環境やIoT環境でTailscaleを使っている方には、かなり実用的なアップデートだと思います。無料プランでも利用可能かどうかは公式ブログの発表で確認してみてください。

VPNやネットワーク構成に興味がある方は、GrapheneOSのようなプライバシー重視のツールと組み合わせて使うのも面白いかもしれません。