ソフトバンク「SoftVoice」でコールセンターのカスハラ問題に挑む
ソフトバンクが2026年2月、コールセンター向けのAI音声変換ソリューション「SoftVoice」の提供を開始しました。通話中の顧客の怒声や威圧的な声色を、AIがリアルタイムで穏やかなトーンに変換するというもの。オペレーターの心理的負担を大幅に軽減することを目指しています。
近年、カスタマーハラスメント(カスハラ)がコールセンター業界の深刻な課題になっている中、AIによるアプローチとして注目を集めています。
SoftVoiceの仕組み|発話内容を変えずに声色だけを変換
SoftVoiceの最大の特徴は、顧客の発話内容はそのままに、声色や声のトーンだけをリアルタイムで変換する点にあります。
電話システムにインストールするアプリケーション形式で提供され、オペレーターがアプリの音声変換ボタンを押すだけで、顧客の声が即座に変換されます。150種類の音声パターンから声色を選択できるほか、通話内容は録音・保存も可能です。
つまり、顧客が何を言っているかはしっかり聞こえるけれど、その「言い方」だけが穏やかになるわけです。これなら通話の本質的な内容は失わずに、オペレーターへの精神的なダメージを軽減できます。
東京大学との共同研究で開発|怒りの感情指標が30%以上低下
SoftVoiceは、東京大学大学院の高道慎之介准教授との共同研究の成果に基づいて開発されました。約300人を対象にした実証実験では、SoftVoiceで変換した通話音声を聞いた場合、変換前と比べて怒りの感情に関する評価指標が平均30%以上低下したという結果が出ています。
30%という数字はかなり大きいですよね。実際の現場で、オペレーターが日々受けるストレスが3割減るとしたら、離職率の改善にもつながる可能性が高いのではないでしょうか。
エスカレーション機能で安全性も確保
音声を穏やかにするだけでなく、安全面にも配慮された設計になっています。
- 通話が長時間に及んだ場合、自動で警告メッセージを表示
- 脅迫や暴言的な表現を検知した場合にもアラートが発動
- オペレーターから管理者に警告メッセージを送信でき、管理者の承認を経て3段階の警告レベルを使い分けられる
単に「声を変える」だけでなく、エスカレーション(段階的対応)の仕組みが組み込まれている点は実用的だと感じます。
カスハラ問題の深刻さ|厚労省も対策に乗り出す
そもそもなぜこうしたソリューションが求められているのか。背景にあるのは、日本のカスハラ問題の深刻化です。
厚生労働省の調査によると、コールセンター業務に従事する労働者の約7割が「暴言や威圧的な態度を経験したことがある」と回答。離職理由の上位にも精神的ストレスが挙げられており、人材確保が年々困難になっています。
2024年には東京都がカスハラ防止条例を制定するなど、社会的にも対策が急務となっている状況です。こうした流れの中で、テクノロジーによる解決策としてSoftVoiceが登場したと言えるでしょう。
AI音声変換技術の進化がもたらす可能性
SoftVoiceで使われているAI音声変換技術は、コールセンター以外にも応用の可能性があります。たとえば、医療現場での患者対応、行政の窓口業務、教育現場など、感情的なやり取りが発生しやすい場面では同様の技術が役立つかもしれません。
AI音声技術の進化は著しく、テキストから音声への変換だけでなく、今回のような「感情の変換」まで実現できるようになりました。AI音声クローンの法的問題とも隣り合わせの技術ではありますが、適切に使えば人々の働く環境を大きく改善する力があります。
価格と導入方法
SoftVoiceの利用料金は、10 ID(10オペレーター分)で月額5万円(税別)からとなっています。1オペレーターあたり月5000円と考えると、離職防止や労働環境改善のコストとしては妥当な水準ではないでしょうか。
導入は既存の電話システムにアプリをインストールする形で、大がかりなシステム改修は不要とのこと。この手軽さも普及のポイントになりそうです。
テクノロジーで「人を守る」時代へ
SoftVoiceのようなソリューションを見ると、AIの使い方として非常に健全だなと感じます。人の仕事を奪うのではなく、人が安心して仕事を続けられる環境を作るためにAIを使う。この方向性は今後さらに広がっていくはずです。
カスハラは加害者側の問題であって、対応するオペレーターが我慢すべきものではありません。テクノロジーによる防御策が充実することで、コールセンターで働く人々の尊厳が守られる社会に近づいてほしいですね。
AIと人間の協働のあり方を考える上でも、SoftVoiceは良い事例と言えるのではないでしょうか。
