クラウドインフラの世界に、静かだが確実な地殻変動が起きている。米スタートアップのOxide Computerが、シリーズCラウンドで2億ドル(約300億円)の資金調達を完了した。しかも、このラウンドは既存投資家のみで構成されている。つまり、彼らのビジョンに最初から賭けた人たちが「もっと賭けたい」と判断したということだ。

Oxide Computerとは何者か

Oxide Computerは2019年に設立されたハードウェアスタートアップだ。創業者のBryan Cantrill氏は、Sun MicrosystemsやJoyentで長年インフラ技術に携わってきた人物として知られている。一方で、同社が手がけるのは単なるサーバーではない。「ラックスケールのクラウドコンピューター」という、これまでにないカテゴリの製品を開発している。

具体的には、AWS・Google Cloud・Azureといったパブリッククラウドが自社データセンターで使っているアーキテクチャを、企業が自社のオンプレミス環境で利用できるようにした製品だ。しかし、ハードウェアからソフトウェアまで一貫して自社設計している点が、既存のサーバーベンダーとは根本的に異なる。

Oxide ComputerのシリーズCが意味すること

今回のシリーズC調達で注目すべき点は、同社が「資金を必要としていなかった」と明言していることだ。プロダクトマーケットフィットを達成し、ユニットエコノミクスも成立している。つまり、事業は自走可能な状態にある。

それでも2億ドルを調達した理由は、「独立性の確保」だ。インフラ業界では、有望なスタートアップが大手に買収されるケースが後を絶たない。一方で、顧客にとっては「せっかく導入したのに、買収後にサービスが変わった」という経験が積み重なっている。しかし、Oxide Computerは十分な資金を持つことで、買収の誘惑を排除し、長期的な独立経営を保証する狙いだ。

なぜオンプレミスクラウドが今注目されるのか

「すべてをパブリッククラウドに移行する」という流れは、2020年代前半にピークを迎えた。しかし現実には、世界のITワークロードの約85%がまだオンプレミスで稼働している。セキュリティ要件、データ主権、レイテンシー、コスト予測可能性など、パブリッククラウドでは解決しきれない課題が多い。

一方で、既存のオンプレミスインフラは古い設計思想のままだ。バラバラのコンポーネントをユーザーが統合し、自分で運用する必要がある。さらに、VMwareのBroadcomによる買収後のライセンス変更は、多くの企業にとってオンプレミスの選択肢を見直す契機になった。

Oxide ComputerのシリーズC成功は、この市場のニーズが本物であることを証明している。従来型のサーバーベンダーが提供できない「クラウドネイティブなオンプレミス体験」に、確実な需要があるということだ。

Oxide Cloud Computerの技術的特徴

Oxide Cloud Computerの最大の特徴は、ハードウェアとソフトウェアの垂直統合設計だ。プリント基板の設計からAPIエンドポイントまで、すべてを自社で開発している。この設計思想は、AppleがiPhoneで実現しているものに近い。

主な技術的な強みは以下のとおりだ。

  • API駆動:コンソールで操作できるすべてがAPIとCLIでも利用可能。Terraform、Kubernetesとの統合にも対応している
  • エラスティックリソース:パブリッククラウドと同様に、必要に応じてリソースを動的にプロビジョニングできる
  • 電力効率:従来のサーバーと比較して55%の省電力、12倍の冷却効率を実現
  • プロビジョニング速度:日単位ではなく時間単位でのデプロイが可能
  • ライセンスフリー:サブスクリプション課金なし。購入後は追加ライセンス費用が発生しない

競合との比較:Dell・HPE・Nutanixとの違い

オンプレミスインフラ市場には、Dell、HPE、Nutanixといった既存プレイヤーがいる。しかし、これらの企業が提供するのは基本的に「コンポーネントの組み合わせ」だ。ユーザーがサーバー、ストレージ、ネットワーク機器をそれぞれ選び、自分で統合する必要がある。

一方、Oxide Computerは最初から統合された「クラウドコンピューター」として提供される。問題が発生した場合も、「サーバーベンダーに聞いてください」「ストレージベンダーに聞いてください」というたらい回しが起きない。この一貫したサポート体制は、運用コストの削減にも直結する。

日本企業への影響と今後の展望

日本市場では、金融・製造・官公庁を中心にオンプレミス志向が依然として強い。しかし、クラウドネイティブな開発手法を取り入れたい企業も増えている。Oxide Computerのような「オンプレミスだがクラウドと同じ体験」を提供するソリューションは、日本企業にとっても大きな選択肢になり得る。

今後の焦点は、Oxide Computerが国際展開をどう進めるかだ。現時点では米国市場が中心だが、2億ドルの資金を背景にグローバル展開を加速させる可能性は高い。特に、データ主権の観点からパブリッククラウドを避ける欧州やアジアの企業にとって、同社の製品は魅力的な選択肢となるだろう。

まとめ

Oxide ComputerのシリーズC調達は、単なる資金調達のニュースではない。「オンプレミスクラウド」という新しいカテゴリが確立されつつあることを示すシグナルだ。パブリッククラウド一辺倒の時代は終わり、企業が自社のデータセンターでクラウドと同等の体験を得られる時代が来ている。

インフラの選択肢が広がることは、IT業界全体にとってプラスだ。Oxide Computerの今後の動向に注目しておきたい。

参考リンク

関連記事:Web開発・DevTools完全ガイド2026サイバーセキュリティ完全ガイド2026