NASA AI「AnomalyMatch」が宇宙研究の常識を変えた

2026年1月、NASAが驚きの発表を行いました。ESA(欧州宇宙機関)の研究者と共同で開発したAI「AnomalyMatch」を使って、ハッブル宇宙望遠鏡のアーカイブ画像を分析したところ、わずか2ヶ月で1300万以上の異常な天体を特定できたというのです。

しかもそのうち800個は、すでに論文にも掲載されていなかった未知の天体でした。人間の目では見つけられなかったものを、AIが次々と発見していった――この事実が持つインパクトは相当大きいのではないでしょうか。

そもそも「異常天体」とは何か

宇宙にある天体の多くは、既知の分類体系に当てはめることができます。恒星、銀河、星雲、星団といった具合ですね。ところが中には、どのカテゴリにも収まらない天体が存在します。これが「異常天体(anomalous objects)」と呼ばれるものです。

たとえば、近くの星の重力で形が大きく歪んだ銀河や、背後の光源が重力レンズ効果で奇妙な姿に見える天体。あるいはガスの「エッジ」が断崖のような形状を作り出した星雲など、既存の分類では説明しきれない天体は意外と多く見つかっています。

こうした天体は、新しい物理現象の手がかりになることもあるため、天文学者にとって非常に重要な研究対象です。しかし、膨大なアーカイブの中から人間が一つずつ探し出すのは現実的ではありませんでした。

AnomalyMatchの仕組み|通常の天体パターンを学習して「外れ値」を見つける

AnomalyMatchを開発したのは、ESAの研究者デイビッド・オライアンとパブロ・ゴメスの2人です。このAIの基本的なアプローチは、まず「正常な天体」のパターンを大量に学習させることにあります。

具体的には、ハッブル望遠鏡が撮影した膨大な画像データから、典型的な天体の特徴(明るさ、形状、スペクトル分布など)をディープラーニングで学習。その上で、学習済みパターンから大きく逸脱するものを「異常候補」としてフラグ付けする仕組みになっています。

いわゆるニューラルネットワークを活用した異常検知(Anomaly Detection)の応用ですが、天文データ特有の課題――たとえば画像のノイズ処理や、観測条件の違いによるバイアス補正――にも対応している点が特徴的です。

2ヶ月で1300万件を処理できた背景

ハッブル宇宙望遠鏡は1990年の打ち上げ以降、35年以上にわたって膨大なデータを蓄積してきました。このアーカイブは無料で公開されていますが、データ量があまりに膨大で、人間が全てを精査することは到底不可能です。

AnomalyMatchは、このアーカイブの画像データを自動的にスキャンし、1枚あたり数ミリ秒で判定を行います。GPUクラスタ上で並列処理することで、約2ヶ月という短期間で全アーカイブの走査を完了させました。

研究チームのゴメス氏は「AIがアーカイブのデータセットにおける科学的成果をいかに高められるかを示す強力な事例だ」とコメントしています。

発見された異常天体の具体例

今回見つかった異常天体には、以下のようなものが含まれていたとされます。

  • 重力レンズ天体:前方の巨大な天体の重力で光が曲げられ、背後の天体が歪んで見えるもの
  • 潮汐相互作用銀河:近傍の銀河と重力的に相互作用し、形状が大きく変形した銀河
  • 断崖状星雲:ガスの「エッジ」が鋭い断崖のような構造を持つ星雲
  • 未分類天体:既存のどの分類にも当てはまらない、まったく新しいカテゴリの天体

特に興味深いのは「未分類天体」の存在で、これらは新しい物理現象や天体形成メカニズムの発見につながる可能性を秘めています。

他の宇宙望遠鏡への応用可能性

NASAはすでに、AnomalyMatchをハッブル以外の宇宙望遠鏡のアーカイブにも適用する計画を示唆しています。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)やチャンドラX線天文台など、異なる波長帯で観測しているデータにも応用できれば、発見の幅はさらに広がるでしょう。

AIの科学研究への活用が加速する中、AnomalyMatchはその最前線に位置する事例と言えます。宇宙データの「宝の山」は、まだまだ掘り起こされていない発見であふれているのかもしれません。

AIが変える天文学の未来

今回のNASAの成果は、AI活用の一つの理想形を示しているように感じます。人間が処理しきれない膨大なデータから、意味のあるパターンを高速で抽出する。これはまさに大規模データ処理におけるAIの得意分野です。

天文学に限らず、医療画像診断、気象データ分析、材料科学など、データ量が爆発的に増えている分野では、同様のアプローチが有効になるはずです。AnomalyMatchの成功は、「AIは人間の代わりではなく、人間では不可能だったことを可能にするツール」という視点を改めて示してくれた事例ではないでしょうか。

参考:NASA公式サイトESA公式サイトITmedia AI+