「被告であるMetaとGoogleは、依存症を設計(エンジニアリング)した」——米国の法廷で、陪審員にこう告げられる場面があった。これはSF映画のセリフではない。2026年2月に進行中の、米国史上最大級のテック企業責任訴訟での実際の発言だ。

何が起きているのか:訴訟の背景

この裁判は、Meta(Facebook、Instagram)やGoogle(YouTube)などの大手テック企業が、若年層のメンタルヘルスに悪影響を与えるプラットフォーム設計を意図的に行ったとする集団訴訟だ。複数の州や学区、そして保護者団体が原告として名を連ねている。

原告側の主張は明確だ。これらのプラットフォームは、ユーザーの滞在時間を最大化するために「依存性のある設計」を意図的に採用した。そして、その設計が若者のうつ病、不安障害、自傷行為の増加に直接つながっている——というものだ。

「依存症の設計」とは具体的に何を指すのか

裁判で焦点となっている「依存症の設計」には、いくつかの具体的なメカニズムがある。

  • 無限スクロール:コンテンツの終わりがない設計。ユーザーは「もう少しだけ」と思いながら際限なくスクロールし続ける
  • 通知の最適化:エンゲージメントが下がったタイミングで通知を送り、アプリに呼び戻す仕組み
  • 「いいね」の可変報酬:投稿への反応がランダムなタイミングで届くことで、スロットマシンと同様のドーパミン報酬回路が形成される
  • アルゴリズム推奨:ユーザーが反応しやすい(多くの場合、刺激的な)コンテンツを優先表示する
  • ストリーク機能:Snapchatのストリークのように、連続使用を途切れさせたくないという心理を利用する

これらの機能は個別に見れば「便利なUX」として説明できる。しかし、裁判では「これらを組み合わせることで依存性のあるシステムが意図的に構築された」と主張されている。

Meta・Google側の反論

被告側は当然ながら反論している。主な論点は以下のとおりだ。

まず、プラットフォームの設計はユーザー体験の向上を目的としたものであり、「依存症を意図したものではない」という立場だ。一方で、各社はペアレンタルコントロール機能や利用時間制限ツールを提供しており、安全対策に投資していることも強調している。

さらに、メンタルヘルスの問題は複合的な要因で生じるものであり、SNSだけを原因とするのは科学的に不正確だという主張もある。しかし、裁判では内部文書が証拠として提出されており、企業側が若者への悪影響を認識しながら対策を怠った可能性が指摘されている。

この裁判がSNS規制の転換点になる理由

この訴訟が注目を集めるのは、その規模と潜在的な影響力だ。もし原告側が勝訴すれば、テック企業は製品設計そのものの変更を求められる可能性がある。これは、たばこ訴訟が喫煙規制の転換点になったのと同じ構図だ。

実際、米国ではすでにSNS規制の動きが加速している。2025年にはオーストラリアが16歳未満のSNS利用を禁止する法案を成立させたほか、EUのデジタルサービス法(DSA)も未成年者保護を強化する方向で運用が進んでいる。米国でも複数の州が独自のSNS規制法を制定しており、連邦レベルでの法整備への圧力も高まっている。

日本への示唆:対岸の火事ではない

日本では、SNSの依存性に関する議論は米国ほど活発ではない。しかし、若年層のスマートフォン依存やSNSいじめは深刻な社会問題だ。文部科学省の調査では、中学生のスマートフォン利用時間は年々増加しており、メンタルヘルスとの関連が指摘されている。

米国の裁判結果は、日本の政策議論にも影響を与える可能性が高い。一方で、テック企業への規制が過度になれば、イノベーションを阻害するリスクもある。ユーザー保護と技術革新のバランスをどう取るかが、今後の焦点になるだろう。

企業が今すぐ考えるべきこと

この裁判は、テック企業だけの問題ではない。アプリやサービスを開発するすべての企業に対して、「ユーザーのウェルビーイングを設計段階から考慮する」ことの重要性を突きつけている。

具体的には、エンゲージメント指標だけでなく、ユーザーの利用健全性を測る指標を導入すること。そして、未成年者に対する特別な保護措置をデフォルトで組み込むことが求められるようになるだろう。

まとめ

MetaとGoogleが「依存症を設計した」と指摘されるこの裁判は、テック業界の責任を問う画期的な事例だ。結果がどうなるにせよ、「プラットフォーム設計と社会的責任」というテーマが本格的に議論される時代に入ったことは間違いない。

私たちユーザーも、自分が使っているサービスがどのように設計され、何を目的としているのかに意識的になる必要がある。

参考リンク

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