
「AIで仕事がなくなる」「AIで生産性が10倍になる」——ここ数年、こういった話を聞かない日はありませんでした。しかし、数千人のCEOを対象にした調査で、AIが雇用にも生産性にも実質的な影響を与えていないという結果が出て、かなり話題になっています。
CEO調査の概要
この調査は、企業のトップ層を対象にAI導入の実態を聞いたものです。結果として、多くのCEOがAI導入後も従業員数に変化がなかったこと、そして期待したほどの生産性向上が実現していないことを認めています。
正直なところ、テック業界にいる身としてはそこまで驚く結果ではないかもしれません。しかし、経営者の口から公式にこういった声が出てくるのは、これまでほとんどなかったんですよね。
AIは雇用を奪っていないという事実
調査結果で特に注目すべきは、AI導入が直接的な人員削減につながっていないという点です。IBMがAIの限界を認めて新卒採用を3倍に増やしたという話とも整合性がありますね。
これにはいくつかの理由が考えられます。まず、現在のAIツールは特定のタスクを効率化するものの、職種全体を置き換えるレベルには達していません。また、AIを導入することで新たに生まれるタスク(プロンプト作成、出力の検証、ワークフローの設計など)が増え、結果として人員は減らないというパターンも多いようです。
生産性向上の壁
生産性についても、期待と現実のギャップは大きいようです。AIに先行者利益はないという記事でも触れましたが、AIツールの導入だけでは本質的な業務改善にはならないケースが多いと感じています。
たとえば、ChatGPTを使ってメール文面を作成する時間は短縮できても、そのメールを送るかどうかの判断や、相手の反応への対応といった本質的な業務は変わりません。こういった「AIで効率化できる部分」と「人間にしかできない部分」の比率を冷静に見ると、全体の生産性向上は限定的になるのは自然なことです。
AIハイプとのギャップ
この調査結果は、AIハイプサイクルにおける「幻滅期」を如実に反映しているように見えます。ただ、これは必ずしもネガティブな話ではないと思っています。
過度な期待が冷めることで、逆に実用的なAI活用が進む可能性があるからです。「AIで全部解決」という幻想から、「この業務のこの部分にAIを使う」という現実的なアプローチに移行する企業が増えれば、長期的には良い方向に向かうのではないでしょうか。
日本企業への示唆
日本では生成AIでコンサルティングが変わるといった話題が盛り上がっていますが、今回の調査結果は冷静に受け止めるべきだと思います。
AIツールを導入すること自体は良いのですが、「導入すれば生産性が上がる」という前提で投資判断をするのはリスクがあります。むしろ、現場の具体的な課題を明確にした上で、その課題にAIが有効かどうかを検証するプロセスが重要になってきます。
それでもAIの価値はある
調査結果だけを見ると「AI不要」と受け取る方もいるかもしれませんが、それは早計です。AIエージェント開発プラットフォームの進化は続いていますし、特定の領域では明確な成果が出ています。
コーディング支援、カスタマーサポートの自動化、データ分析の高速化など、適切なユースケースでは確実に効果を発揮しています。問題は「どこにでも効く万能薬」として扱ってしまうことにあるのだと思います。
まとめ
数千人のCEO調査が示したのは、AIが「まだ」雇用や生産性を大きく変えていないという現時点でのスナップショットです。これをもってAIの可能性を否定するのは間違いですが、過度な期待を修正する良いタイミングではあります。大切なのは、AI万能論でも不要論でもなく、自社の具体的な課題にAIが有効かどうかを地道に検証していく姿勢なのだと思います。