SpotifyがついにiOSアプリで価格を表示できるように

長年にわたるAppleとの対立を経て、SpotifyがEU圏内のiOSアプリで初めてサブスクリプション価格を表示できるようになった。これはAppleの自主的な譲歩ではなく、EUの規制圧力によって実現したものだ。

これまでiOSのSpotifyアプリでは、有料プランの料金を表示することすら許されていなかった。ユーザーは自力でSpotifyのWebサイトにアクセスして申し込む必要があり、多くの人がApple Musicを選ぶ一因になっていたとSpotifyは主張してきた。

EUのデジタル市場法(DMA)が変えたルール

この変化の背景にあるのが、EUのデジタル市場法(Digital Markets Act:DMA)だ。2024年3月に全面施行されたDMAは、大手テクノロジー企業を「ゲートキーパー」に指定し、自社プラットフォーム上での反競争的行為を禁止している。

Appleは2024年3月に、DMA違反で欧州委員会から18.4億ユーロ(約3000億円)の制裁金を科された。これは音楽ストリーミング市場においてAppleが不当な制限を課していたと認定されたためだ。

興味深いのは、今回のSpotifyの価格表示がDMAの新しいビジネスルールではなく、この制裁に基づく独占禁止ガイドラインに従った形で実現した点だ。DMAのルールでは、AppleはApp Store外への誘導リンクを許可する義務があるが、実際の運用では複雑な手数料体系や制限が課されており、開発者からの批判が続いている。

アプリ開発者への影響

Spotifyの勝利は、他のアプリ開発者にとっても意味がある。NetflixやKindleなど、Appleの30%手数料を避けるためにアプリ内課金を回避してきたサービスにとって、EU市場でのルール変更は新たな選択肢を提供する。

ただし、EU域外ではAppleの従来のルールが依然として有効だ。日本を含む多くの国では、アプリ開発者はAppleのApp Store手数料体系に縛られたままだ。日本でも2024年に「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」が成立しており、今後の動向が注目される。

プラットフォーム経済の転換点

AppleとSpotifyの争いは、単なる2社間の問題ではない。プラットフォーマーがどこまで自社エコシステム内のルールを支配できるのかという、デジタル経済の根本的な問いに関わっている。

EUは規制による介入を選択したが、米国では司法省によるAppleへの独占禁止訴訟が進行中で、アプローチは異なるものの問題意識は共通している。テクノロジー大手のプラットフォーム支配に対する規制は、世界的なトレンドとして今後も強まっていくだろう。

消費者にとっては、競争が促進されることでサービスの選択肢が広がり、価格が適正化される可能性がある。アプリ開発者にとっては、プラットフォーム手数料の見直しやビジネスモデルの自由度向上が期待できる。デジタル市場の「公正さ」をめぐる議論は、まだ始まったばかりだ。