Apache Arrowが10周年を迎えました。名前は聞いたことがあるけど何をしているのかよくわからない、という方も多いかもしれません。でも実は、あなたが日常的に使っているデータツールの裏側でArrowが動いている可能性はかなり高いんです。
Apache Arrowとは何か
簡単に言うと、「異なるプログラミング言語間でデータを高速にやり取りするための共通フォーマット」です。従来、PythonからJavaにデータを渡すには、一度シリアライズ(変換)してから受け取り側でデシリアライズ(復元)する必要がありました。この変換処理がボトルネックになっていたわけです。
Arrowはカラムナ(列指向)のメモリフォーマットを定義していて、「ゼロコピー読み取り」を実現しています。つまり、データを変換せずにそのまま別の言語やツールに渡せる。これがどれだけ革命的かは、大量データを扱ったことがある人なら実感できるはずです。
10年前に何が起きたか
Arrowプロジェクトが始まった2016年頃、データ処理の世界はバラバラでした。PandasはPandasの、SparkはSparkの、RはRの内部フォーマットをそれぞれ持っていて、ツール間の連携は常に変換コストとの戦いだったのです。
Wes McKinney(Pandasの作者)を中心に、「共通のメモリフォーマットを作ろう」というアイデアが具体化し、Apache Arrowが誕生しました。最初は懐疑的な声もあったそうですが、10年経った今、その判断は完全に正しかったかもしれません。
どこで使われているか
Arrowが採用されているプロジェクトは驚くほど多いです。代表的なものを挙げると:
- Pandas 2.x(バックエンドとしてArrowを選択可能に)
- Polars(Rustベースの高速DataFrameライブラリ)
- DuckDB(組み込み型分析データベース)
- Apache Spark(ビッグデータ処理)
- Snowflake、BigQuery(クラウドデータウェアハウス)
つまり、AIツールやデータ分析プラットフォームの多くが、内部的にArrowの恩恵を受けているということです。
なぜカラムナフォーマットが速いのか
データベースの世界には「行指向」と「列指向」という2つのアプローチがあります。行指向は1レコードずつデータを格納するので、特定の行を丸ごと取り出すのが得意。一方、列指向は同じカラムのデータをまとめて格納するので、「売上カラムだけ集計したい」といった分析クエリに圧倒的に強いのです。
さらにArrowは、CPUのSIMD命令やGPUでの並列処理を意識した設計になっています。現代のハードウェア性能を最大限引き出すためのフォーマットと言えますね。
対応言語の広さ
Arrowのライブラリは現在、C、C++、Go、Java、JavaScript、Julia、Python、R、Rust、Swiftなど13以上の言語に対応しています。この「言語を問わない」という特性が、エコシステムの急速な拡大を支えてきました。
Python 3.14でも標準ライブラリの改善が進んでいますが、データ処理の高速化という文脈では、Arrowのような言語横断的な取り組みが今後さらに重要になっていくはずです。
10年経っても進化は続く
10周年といっても完成品ではありません。Arrow Flight(ネットワーク越しのデータ転送プロトコル)やArrow ADBC(データベース接続の標準化)など、新しいサブプロジェクトが次々と生まれています。「フォーマットの標準化」から「データインフラ全体の標準化」へと、野心はさらに広がっているようです。
まとめ
Apache Arrowは、派手なAIモデルのように注目されることは少ないかもしれません。でも、データ処理の世界を裏側から支え、ツール間の壁を取り払ってきた功績は計り知れないものがあります。次の10年でArrowがどこまで浸透するか、引き続き注目していきたいと思います。