AIスウォームとは何か

1匹のアリは大したことができません。でも、数百匹が集まると巣を作り、食料を運び、複雑な社会を維持できます。これが「スウォーム(群れ)知能」の本質です。

同じ発想をAIエージェントに応用したらどうなるか。その実験として注目を集めているのが、小型AIエージェントの群れでSQLiteをビルドするというプロジェクトです。

従来のAIコーディングアシスタントは、1つの大きなモデルがすべてを処理するアプローチが主流でした。けれども、この実験は「小さなモデルを大量に並列動作させる」という全く異なる戦略を採用しています。

実験の概要

この実験では、SQLiteのソースコードを複数の小さなタスクに分解し、それぞれを別々のAIエージェントが担当します。各エージェントは比較的小さなLLMで動作し、自分の担当部分だけに集中するわけです。

具体的なワークフローは以下のとおりです。

  • タスク分割:SQLiteのビルドプロセスを細かいサブタスクに分解
  • エージェント割り当て:各サブタスクに専用のAIエージェントを配置
  • 並列実行:エージェントが同時にコード生成・修正を実行
  • 結果統合:オーケストレーターが各エージェントの出力をマージ
  • テスト検証:統合されたコードに対してテストスイートを実行

なぜSQLiteを選んだかというと、コードベースが十分に複雑でありながら、テストスイートが非常に充実しているからです。結果の正しさを客観的に検証できるのが大きな利点ですね。

AIスウォームが単一モデルより優れている点

「大きなモデル1つで十分じゃない?」と思うかもしれません。しかし、スウォームアプローチにはいくつかの明確な利点があります。

コンテキストウィンドウの制約を回避できる。どんなに優秀なLLMでも、一度に処理できるトークン数には上限があります。SQLiteのソースコードは約15万行。これを1つのモデルに丸ごと渡すのは現実的ではありません。スウォームなら、各エージェントが必要な部分だけを参照すればよいので、この問題を自然に解決できます。

さらに、コストの最適化も可能です。LLMエージェントのコストは二次関数的に膨らむことが知られていますが、小さなモデルを複数使うことで、1エージェントあたりのコストを大幅に抑えられます。

加えて、障害耐性も向上します。1つのエージェントがおかしな出力をしても、他のエージェントには影響しません。問題のあるエージェントだけをリトライすればよいのです。

課題と限界

もちろん、このアプローチには課題もあります。正直に言えば、現時点ではまだ実験段階です。

最大の課題はタスク間の依存関係でしょう。コードの関数Aが関数Bを呼び出している場合、両者を別のエージェントが担当すると、インターフェースの整合性を保つのが難しくなります。

また、オーケストレーションの複雑さも無視できません。数十のエージェントを協調させるためのメタレベルの仕組みが必要で、これ自体がかなりのエンジニアリング努力を要します。AIエージェントハーネスの設計パターンが参考になりますが、スウォーム規模の管理はまた別の次元の問題です。

それでも、実験結果としてはかなり有望でした。テストスイートの通過率は単一モデルアプローチと同等以上で、処理時間は大幅に短縮されたと報告されています。

マルチエージェントAIの潮流

この実験は、AI業界全体のトレンドとも合致しています。OpenAIのSwarm(フレームワーク)やAnthropicのマルチエージェント構想など、「複数のAIを協調させる」というアプローチは2026年の大きなテーマになっています。

AIエージェント開発プラットフォームの多くが、マルチエージェント対応を強化しているのも、こうした流れの一環でしょう。

とりわけ興味深いのは、「小さなモデルの方が特定タスクでは効率的」という発見です。巨大モデルは汎用性に優れていますが、限定されたタスクに対してはオーバースペックになることがあります。スウォームアプローチは、この非効率を解消する一つの答えかもしれません。

開発者への示唆

この実験から、開発者が学べることは少なくありません。

まず、タスク分解の重要性。AIに何かを作らせるとき、「全部やって」と丸投げするより、適切な粒度でタスクを分割した方が品質が上がる傾向があります。これは人間のチーム開発と同じですね。

次に、テスト駆動の価値。スウォームが機能するのは、SQLiteに強力なテストスイートがあるからです。テストがなければ、各エージェントの出力を検証する手段がなく、統合時に破綻します。AIの時代だからこそ、テストコードの重要性は増しているのです。

そして、モデルサイズの再考。何でもかんでもGPT-5やClaude Opus 4.6のような最大モデルを使う必要はありません。タスクに応じて適切なサイズのモデルを選ぶことで、コストと品質のバランスを最適化できます。

今後の展望

AIスウォームによるソフトウェア開発は、まだ始まったばかりです。しかし、その可能性は非常に大きいと感じます。

将来的には、オープンソースプロジェクトのバグ修正や機能追加を、AIスウォームが自動的に処理する時代が来るかもしれません。もちろん、人間のレビューは不可欠ですが、初期のコード生成やテストの段階はAIに任せられる可能性があります。

Google Antigravity IDEのようなエージェントファーストの開発環境が普及すれば、こうしたスウォーム的なワークフローが標準になるかもしれませんね。

まとめ

小型AIエージェントの群れでSQLiteをビルドするという実験は、AIコーディングの新しい可能性を示しました。単一の大型モデルに頼るのではなく、タスクを分割して複数のエージェントに並列処理させるアプローチは、コスト・速度・障害耐性の面で優位性があります。

「大きいことはいいことだ」というAI業界の常識に、小さなエージェントたちが挑戦状を叩きつけた。そんな実験として、今後の展開にも注目していきたいところです。